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研究資料明細
[摘要] :
台湾人少年工だった父親とその息子が、不可思議な眠りを通じて歴史に沈殿した記憶を呼び覚ます呉明益の長編小説『睡眠的航線』(2007年)は、その内容から『自転車泥棒』(2015年)に先立つ助走作品と見なされ、先行研究では幻想や環境意識を通じそのた戦争表象に注目が集まってきた。本論ではこれまで触れられてこなかった平岡君/三島由紀夫の表象に着目することで、呉明益が三島の作品をいかにテクストに配置したのかといった点を明らかにする。敗戦によって美しい死といった「恩寵」を反故にされた三島は、彼自身が「生つ粋の日本」と呼ぶ日本語を駆使することで戦後日本での生き直しを図ったが、日本人になるといった「恩寵」を反故にされた三郎は、日本語に固執することで戦後台湾での生き直しに失敗する。本論は『睡眠的航線』を異なる「恩寵」が生み出した人間回復の試みを描いた作品として読み解くことで、両国における戦後を再考するものである。